まだ数名だけど、これから組織拡大していくとどんなことが待っているか、リアルを知りたい
こんにちは、エンペイで取締役CTOをしている田野です。
アドベントカレンダー最終日なのにいきなり宣伝から入るのですが、エンペイは先日シリーズBの資金調達を行いました 🎉
私は共同創業者でもあるので会社を登記した日からいるのですが、シリーズBまで大体5年間で組織としても2→50名を経験してきました。
おそらく創業からシリーズBに至るまで、どのスタートアップも同じように採用、組織づくりにとても悩み、苦しみながら向き合っているかと思います。
組織作りのノウハウは結構公開されており、SaaS Playbook的なものもあり抽象化したノウハウは十分に語られていると思います。
なのでここでは可能な限りリアルに寄せた話、あとマインドセット的な話をしていければと思います。
ちなみにまさにこういった悩みを抱えている方は理解いただけるかと思いますが、組織作りは事業戦略と密接に紐づいており、組織の事だけ話しても正直片手落ちです。
ただ戦略や細かい背景を不特定多数に対しては中々話せず、興味ある方はぜひ個別でお話しましょう!
・組織拡大を予定している小規模な組織づくりをリードしている方:これから起きうる問題に備えることができ、また「どこも苦労しているんだな」と励みになるかもしれません
・50名以上の組織に所属されている方:「あー、そういえばこんなこともあったな」と懐かしい気持ちに浸っていただけるかもしれません
※エンペイはSaaS*Fintechというカテゴリーでビジネスしていますが、Fintech要素が一部ありつつも、基本的にはSaaSな組織作り、運営をしてきています
- 組織づくりを振り返る
- 創業期(5人) 採用難しすぎ、副業に頼って何とかしのぐ時代
- シリーズA前半(20人) 今いる人をいかに活かすかの戦い
- シリーズA後半(30人) 急拡大による亀裂が、機能別組織への移行
- シリーズB突入(50人) 自社の事業特性と失敗を糧に、機能別組織をアップデート
- 学んだこと
- 予測ではなく、適応するマインド
- 世の中の知見はそのままでは使えない。自分たちで経験し集合知としての強度を高める
- おわりに
組織づくりを振り返る
創業期(5人) 採用難しすぎ、副業に頼って何とかしのぐ時代
プロダクトをPMFを目指していくタイミングです。限られたリソースでギリギリまで削ったMVPを作りつつ、アーリーアダプターのお客様を獲得していきます
当時の職種別人数はこちらです
セールス | 3 |
エンジニア | 1 |
カスタマーサポート | 1 |
これ以外に副業としてお手伝いいただく方が、product職種で8名、biz職種で5名ほどいました
この時期はとにかく採用に一番苦労していた気がします。
リファラルを頼って地道に声掛けをするも、「まだまだ出来上がっていないにも程があるだろう!」といったレベルの会社だったのと、
創業者2人が比較的大企業でキャリアを積んできたというのもあり、周囲に興味持ってくれる人材が少なく苦労しました。
この頃はPMFを目指してプロダクトを作ること、売ることに全集中で、副業にタスクを渡しながら自身でも手を動かし推進し、あわよくば副業からの正社員化を狙っていました。
結果として、ビジネスサイドは数名成功したのですが、エンジニアについては残念ながら全滅してしまいました。
最近は副業も特にエンジニアでは一般的になり、副業を含めてキャリアをポートフォリオ的に考える人も多くなったと感じています。
副業は副業と考える方も多く、相当入り口時点での期待値合わせ、コミュニケーションとクロージングにこだわらないと、副業からの正社員化は中々難しいんだなと思いました。
シリーズA前半(20人) 今いる人をいかに活かすかの戦い
そんな中、何とかシリーズAを迎えることができました
とはいえ状況が何か劇的に変わることはなく、引き続き採用の悩みは継続しています。
MTGでは「〜をやる必要がある。ただやれる人がいない。母集団も正直ない」が毎月連発しており、組織を作りながら、1人が複数の役割を持ち推進していっていました。
まとまった資金を調達するということは、投資にもアクセルを踏んで成長を加速させなければならず、かなり焦っていましたね
こうして苦しみながらも何とか1人、また1人と採用は進み集団から組織、会社っぽくなっていきます。
当時の職種別人数はこちらです
CEO | 1 |
CTO | 1 |
営業 | 7 |
エンジニア | 6 |
事業企画 | 1 |
PdM | 1 |
サポート | 3 |
本来は戦略から組織を作って、組織内で必要な役割を定義し人を取りに行くというのが王道だと思いますが、いかんせん採用のコントロールが困難だったので、本来やりたいことと現在いる人を活かせるやり方の落とし所を見つけつつ、走りながら戦略を立てていました。
20人くらいになってもまだ組織図といったものはなく、このようなイメージで事業運営をしていました。
「一応マトリクス組織に見えなくもない何か」といった感じですね 笑
エンジニアチームは比較的先行して作ることができましたが、ビジネスサイドはThe Model型を目指していたものの、Field Sales職以外の採用に苦戦しており、中々思うようなフローが作れない時期が続いていました
シリーズA後半(30人) 急拡大による亀裂が、機能別組織への移行
一人目HR入社がきっかけで採用にアクセルがかかり、リファラルも徐々に機能しリズムができてきて組織は30人に到達しました。
ただ1年間で6倍近くに増えたこともあり、組織のあらゆるところに亀裂が入り始めていました。
この時期は経営陣のマインド、リソースを組織作りに集中させ様々な手を打ち、またこのタイミングで等級、評価、報酬をを定義した人事制度導入と同時に、いわゆるツリー状の機能別組織に整理しました
組織化にあたって多くは事業部制組織、機能別組織のどちらにベースを寄せるべきか、メリット、デメリットを考えるかと思います。
我々も何度も議論をし、
- エンジニアに代表される専門職が多く、専門性をマネジメントできる体制にすることが持続的な成長につながる
- 機能別組織のデメリットである事業推進のために部署が連動して動きにくい点については、職種をまとめる経営レイヤーが密に連携することで乗り越えられると判断
ことからベースとしては機能別組織を選択しました。
まだミドルマネージャーはこのタイミングでは基本的に取締役、執行役員クラスがマネジメントも兼ねており、人事権は持たない現場のリーダーを何人か配置するといったことを行っていました
シリーズB突入(50人) 自社の事業特性と失敗を糧に、機能別組織をアップデート
さらに時は進み組織は50人に、シリーズBに突入しました。
ようやくシリーズAからの悲願であった、必要な専門性を持つ職種が一通り採用することができ、会社としてある程度幅を持った戦術オプションを実行できる状態になってきました。
このタイミングでこれまでの機能別組織の考え方をベースにしつつ、いくつかアップデートを行いました。
最も大きな点としてはプロダクトサイドとビジネスサイドを大きくミッション、KPIベースで分割したことです。
これまでは全社KPIが決まっており、それを職種をまとめる経営レイヤーが分解しつつ、基本的に全職種で追いかけていこうというスタイルでした。
今回は最上段のミッションを下記の2つに分割しました
- (プロダクトサイド)プロダクトの価値の総量を上げる
- (ビジネスサイド)プロダクトを含む会社のアセットを活用して売上を作る
そして、ミッションに紐づくKPIもプロダクト、ビジネスそれぞれで独立して持つようにしました
この背景としては全社で事業目標達成を追いかけるというのは理想的な状態に見えるのですが、特にSLG型のtoB SaaSについては必ずしもプロダクトの力だけで売上が上がるというわけではありません。
構造上アンコントローラブルな領域が多く、過度な密結合した組織はどこか歪で、エンペイの場合は明確に異なるミッションを持つ本部に分け、それぞれ連携しつつ進める体制の方がパフォーマンスが上がるのではと判断しました。
このあたりは経営スタイル、あとは何よりマーケットとプロダクトが解く課題の特性などが複雑に混じり合うため、しっかり自社の特性を理解した上で判断することが重要です。
あとはビジネスサイドでは、業務の性質、求めるスキルが大きく違うことから
- SMB、MID領域
- ENT、公共領域
についてもミッション、KPIを分け、それぞれが独立して意思決定できるようにしました。
これまでは経営レイヤー、リーダーの二階層でしたが、このタイミングでミドルマネジメントも任用することができ、2年かけて何となく想像していた組織の形になりつつあります。
学んだこと
予測ではなく、適応するマインド
エンペイは2年間で5→50名と10倍に組織拡大したわけですが
スタートアップは人がどんどん増えていくので、半年くらいで想像以上に別会社として生まれ変わり続けます。そしてこれが急成長しているのであれば健全だと考えています。
ということは経営、組織、個人としても半年前と同じ考え方、同じことをしていたら危機感を持ったほうがよく、変化に適応し続ける必要があるということだと思っています。
こういった状況で学んだことは、半年以上先に必要だと思ってやることは大体ワークしないということです。一例だと人事制度とかは大企業の制度を経験していると将来のために準備した方がいいものが多いと思えるのですが、MVP思考でシビアに絞って考えて、変化に適応しやすいようすることが重要です。
あとは前提そのものが予測できない形で大きく変わるので、大体半年〜1年くらい持てばいいくらいのマインドで割り切って考えることも大事だと思います。
世の中の知見はそのままでは使えない。自分たちで経験し集合知としての強度を高める
世の中には先輩の経営者、マネージャーの皆様が惜しげもなく知見を共有してくれています。
私自身、組織を0から作るのは初めてなので、それをとにかく大量にインプットしていました。
ただシリーズBまでを振り返っても、弊社はブログなど色々なところで語られている失敗、地雷を踏み抜いていると思います。残念ながら世の中の知見を大量にインプットして備えたものの、活用することはできませんでした。
「なぜだろう?」と振り返ってみると、それは情報が組織としての集合知になっておらず、会社として信じられる強度に達しなかったからだと思っています。
組織作りをしていると不可逆、痛みを伴うなど強い意思を持った決断が求められることの本当に連続で、意思決定の材料にも相応の強い強度が求められます。
集団で一度やってみる、失敗しないとわからないものは本当に多いです。そして自分たちで経験して学ばないと強い強度を持つ意思決定の材料にはなり得ないなと感じました。
組織にはバックグランドが様々なメンバーがいて、初めは持っている情報も重視するポイントも様々で、その中で失敗を繰り返して会社としての集合知ができ、それが積み上がってカルチャーと呼ばれるものになっていくのだと身をもって体感しました。
カルチャーとは「組織として何を信じるか」。重要なのは選択をするサイクルが早く、多くの選択とそれによる結果が積み上げられている & 組織の集合知として信じられる強度に昇華できている状態を作ることなんだなと今では思っています。
おわりに
会社が20人くらいの時には、まさか会社でアドベントカレンダーができる日が来るとは夢にも思いませんでしたが、何とか完走することができました!
このように少し前には想像もできなかったような経験ができるのが、スタートアップの醍醐味だと思います
2024年もエンペイをよろしくお願いします!